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在宅医療の現場から

千種区認知症地域連携の会ICTを活用した多職種連携が、
患者さんのQOL向上につながる

SNS連絡帳を通じて
認知機能変動が浮き彫りに

認知機能変動の有無を尋ねる黒川先生の質問に、ケアマネジャーが、「日によって全然違いますし日内でも変動します。たとえば、前回は公園まで散歩にいくことを目標にしましたが、今は調子がいいと一人で公園を回れるようです」と答えた。
 看護師が「私が冬に訪問したときは、公園まで行けずに途中で帰ってきましたが、今は調子がいいみたいです」と同意する。黒川先生が「それは脚の具合だけでなく、精神的なものも含めてということ?」と確認すると、看護師が「精神的なものだと思います。訪問PTがHDS‒Rを行うと、以前は16点だったのが、前回は27点でしたから」と答える。
 ケアマネジャーが「パソコンのパスワードを自分で打てたんですよね?」と特養の介護福祉士に話を振ると、「いつもは僕が入力するのですが、この前、個室を尋ねたらもうログインした状態でした」と話す。
 黒川先生が、「認知機能の変動はあると考えていいようですね」とまとめつつ、「ただ、春から夏はうつ病の症状が改善していく時期にあたるので、その影響なのか、認知機能の変動なのか、注意してみていきましょう」と付け加えた。

その人の興味を踏まえたケアの視点も共有

テーマが本人の関心事に移ると以下のような会話になった。

介護福祉士 「英語の歌をよく歌われているみたいですし、あとフルートもされるようです」

ケアマネジャー「あ、そういえばご自宅にフルートがありました」

介護福祉士 「そうなんですか」

ケアマネジャー「クラシックがお好きで、以前はコンサートに行かれていたのですが、最近はそれもなくて。行ってほしいなあと思うのですが」

看護師「(SNS連絡帳に)音楽が好きという情報があったので、音楽を流したところ、『うるさい』と言われたことがありました」

黒川先生「クラシックでも好き嫌いがあるのかもしれない。誰かクラシックに詳しい人はいませんかね。どういう曲が好きか、どの作曲家が好きか、そうした質問に、興味があれば答えてくださるでしょう」

介護福祉士「うちにバイオリンとピアノを演奏する職員がいるので、一度そちらから聞いてみましょうか」

黒川先生「そういう人とは話が合うかもしれませんね」

 SNS連絡帳を通じて、Aさんの状態が日々変化するといったエピソードが蓄積されてきた。多くの情報と混在したそれらのエピソードが、チーム会議での黒川先生の発言により、DLBの中核的症状として抽出・集約された。情報の共有が、エピソードが何を意味するかという認識の共有へと進展していった。
 黒川先生は、「チーム会議は勉強の場でもあります」と話す。
「介護の目で見た問題、看護の目で見た問題、医療の目で見た問題を重ね合わせることで、その人の病態像がより明確になります。各自が今後、どういうことを念頭に置いてモニタリングすればいいのかもわかりますし、非常に重要な機会です」
 ケアマネジャーの上出かつ枝さんは、「SNS連絡帳で細かい情報が具体的にあぶりだされました。それがなかったら、チーム会議であそこまで踏み込んだ話し合いはできなかったと思います」と言う。
 チーム会議の終了後、看護師と特養の介護福祉士が別れ際に次のような会話をしていた。

看護師「ショートステイの情報がいつもとても助かります」

介護福祉士「夜の様子もわかりますからね。またがんばって情報収集します」

看護師「ありがとうございます。音楽のほうも、お願いしますね」

介護福祉士 「詳しい職員からAさんにお尋ねするよう頼んでみます」

多職種インタビュー ICTシステムの手応え

上出 かつ枝 さんの取材時の画像。

上出 かつ枝 さんその方の望みや楽しみに早く辿り着ける

このシステムを使ってみてどういう印象をお持ちですか?

 Aさんが食後に失神状態になるという情報を皆が連絡帳に出していたときに、黒川先生から書き込みがありました。「食前食後の血圧の比較ができるとよいのですが」「血圧低下時には水分補給をお願いします。コップ2杯と言われていますが、飲める限りでけっこうです」という指示がパッと出たんです。ドクターとの距離が近づいたような気がしました。

チーム会議では音楽の話題が出ていました。

 以前、デイサービスの方から、「Aさんがとてもいい声でカラオケを歌われていました」という書き込みがあり、他のメンバーが「えっ、カラオケを歌うの!?」と驚いたんです。奥様もご存知ありませんでした。そこから"音楽が好きかもしれない"ということで皆でいろいろと追及し、チーム会議でのあの話になったわけです。

連絡帳や報告書といった従来の情報共有方法では、そこまではできなかったでしょうか?

 その方の楽しみや望むことを見つけ、自発的な外出などに結びつけるのが私たちの仕事なので、必ず見つけなければいけないという思いがありますし、従来でも見つけられたとは思います。ただ、そこに辿り着くまでの時間が非常に短縮されたという印象です。

山本 紀子先生の取材時の画像。

山本 紀子 先生フェイスバッチの機能が薬剤師にはとても有用

Aさんとはどのような関わり方をされているのですか?

月に1回、薬を受け取りに来られる奥様とお会いするだけで、ご本人とは面識がありません。それだけに、このシステムで多職種の方々とリアルタイムに情報共有できることはとてもありがたいです。ご自宅や施設でのご本人の様子がよくわかりますし、薬によってどういう状態になったのか判断できる場合もあります。

まず、どの画面を見るのでしょうか?

 フェイスバッチで服薬状況や副作用の有無などを確認します。Aさんの場合は赤く点灯したこと(問題あり表示)はないのですが、このシステムを導入している別の独居の方の場合はしばしば赤い表示になります。排便コントロールがうまくいっていないという情報があったときは、返信機能を使ってより詳しい状態を確認したうえで、黒川先生に処方変更を提案させていただきました。

チーム会議の印象は?

 皆でわいわい話し合うなかで、「そういえば」と初めて出てくる情報もあり、とても有意義ですね。ただ、そうした話し合いができるも、このシステムでの日頃の情報共有があってこそだと思います。

黒川 豊先生の取材時の画像。

黒川 豊 先生ご家族との情報共有にも活用していきたい

システムを導入してどういうメリットがありましたか?

 1番の利点は、情報がリアルタイムで簡単にわかることです。情報のトリアージが以前より容易になったと思います。
 もっとも、状態の良い人も含め、すべての人にシステムを導入するというのは現実的ではありません。このシステムが向いているのは、認知症が進んで本人から情報を得にくい人、日常の中で変化のある人、進行過程の人、さまざまな症状がある人などだと思います。

チーム会議では、DLBのさまざまな症状を挙げ、ひとつひとつ有無を確認されていました。

 会議で顔を合わせれば、現在の状況からAとBという疾患が疑われ、より可能性が高いAであれば、今後このような症状も起こり得るので注意が必要、というところまで説明できます。ICTでそこまで伝えるのは時間も手間もかかるので、やはりチーム会議は必要です。
 ただ、その人の場合に高い確率で起こり得る症状をモニタリング項目に設定し、注意を喚起しておくことは有効でしょう。モニタリングの結果を示すフェイスバッチ機能は、大事な情報だけがすぐにわかるので、千種区医師会の中でも高い評価がありました。

他の機能についてはいかがでしょう?

 医師が替わっても、次の医師がこのシステムを継続して使える点も評価できます。他の同様のシステムには、情報を引き継げないものも多いようですが、それでは実用的とはいえません。

今後こういう使い方をしたいということはありますか?

 次に予定している方では、東京に住む息子さんにもICTに参加していただこうと思っています。チームの日々の関わりを知れば安心されるでしょうし、医療とケアの透明化にも役立ちます。
 家族の意見は医療やケア方針を決める際の参考になります。結果、医療やケアの質が向上するはずです。

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