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かかりつけ医に必要な在宅医療の知識(第2回)

認知症の在宅医療平原 佐斗司(東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所 オレンジほっとクリニック

はじめに

認知症の方とご家族を支援するかかりつけ医の役割は多岐にわたる。診断と診断のシェアに加え、軽度の時期には治療導入と教育的支援、リハビリテーションも含めた初期の介入を行う。フォローアップ期では、継続的な相談と生活障害に応じたケースマネジメント、合併症や行動心理徴候(BPSD)などの危機管理を行う。そして、重度から末期の時期は、合併症管理、終末期の診断と代理意思決定支援、緩和ケアを提供する。
通常、かかりつけ医は外来、在宅医療という2つの診療形態を駆使して、これらの課題に対応するが、在宅医療では主に進行期の認知症を支援する機会が多い。本稿では、在宅医療に関わる進行期の認知症の諸課題として、認知症の生活障害への支援、危機管理としての合併症とBPSD対応、重度から末期の緩和ケアについて解説する。

障害としての認知症を支援する

認知症ケアにおいては、認知症を「障害」としてとらえる視点を中心に据える必要がある。アルツハイマー型認知症(AD)の方の持つ障害は、軽度の時期には近時記憶障害や時間の見当識障害から始まり、中等度の時期には記憶や見当識障害のさらなる進行、実行機能障害、失行、失認、注意障害、言語の障害等の中核症状が進行し、そして重度の時期には排泄、起立・歩行、嚥下機能障害などの身体機能の障害というふうに変化していく。
これらの中核症状の進行は、実生活では生活機能障害として表出する。生活機能障害は、複雑な行為から、より単純な行為へ進行し、多くの場合、仕事や社会活動から始まり、調理や社会的手続き、金銭管理、買い物や電話をかけるなどの手段的ADL(日常生活動作)、基本的なADLの障害へと進行し、最終的には生活のあらゆる行為に介助が必要な状態となる。
かかりつけ医は、認知症を進行する障害としてとらえ、全ステージを通じて、医療の切り口から障害への支援を検討する役割がある。

危機管理としてのBPSD、合併症をマネジメントする

認知症高齢者と家族は、長い旅路の中で、幾度となく身体合併症の発症やBPSDの出現といった危機に見舞われる。
認知症高齢者は、重症度にかかわらず死亡リスクが上昇する(1))と言われており、認知症の末期に至る前に他の合併症で死亡することが多い。軽度から中等度までは、循環器系疾患による死亡が多く、嚥下反射が低下し長期臥床状態となる重度以降は、肺炎などの感染症による死亡が増加する(2))という報告もある。認知症では、急性疾患による典型的症状が出現しにくいこと、認知症によって適切な受診行動をとれないことが、合併症死が多い原因と推定されている。
合併症は重度以降では頻発するようになる。ADでは発症後約7年で失禁が出現し、その後歩行障害が出現、最期の半年〜2年は寝たきりで過ごすという経過をたどるが、寝たきりになると、尿路感染症が3・4倍に、下気道感染が6・6倍となる(3))。重度の時期は、肺炎などの感染症や転倒・骨折などの急性期対応が増え、合併症による入院が増加する。
高齢者の肺炎はほとんどが誤嚥性肺炎であり、構造的なものである。したがって、治療だけでなく、ケアと栄養、口腔ケア、肺理学療法、早期離床等を含めたリハビリテーション等が重要であり、急性期には多職種による集中的なチームケアが大切になる。
認知症高齢者の肺炎の急性期においては、安易な絶食を避けることが重要である。急性期の安易な絶食によって、炎症による侵襲に加えて、栄養障害と廃用によって咽喉頭筋の二次性サルコペニアが急速に進行し、肺炎が治癒しても食べる機能を喪失してしまうことが少なくない。急性期にも最小限の嚥下反射が保たれていることを確認したら、すみやかに直接嚥下訓練を始めるべきである。
地域においては61%に1つ以上のBPSDが、31%に重度のBPSDが出現する(4))。当院の高齢者ケア外来のデータでは、BPSDがなし50%、環境改善のみ31%、抗精神病薬も含めた薬剤治療が必要なのは19%、入院治療が必要なのは1%未満であった。BPSDの出現は在宅での介護破綻の最大の原因となるが、早期から医療と介護が協力して総合的に対応できれば、多くのケースが在宅対応でき、入院は避けられることが多い。BPSDだからといって安易に入院させ、長期入院になることは極力避けなくてはいけない。
認知症高齢者にとっては生活の場を変えることに大きなリスクを伴う。入院環境は、認知症高齢者の障害された見当識をさらに混乱させ、手続き記憶によって保たれていた生活行為の遂行を台無しにし、サーカディアンリズムを狂わせ、多大なストレスを与える。その結果、せん妄や不穏、転倒などの事故、あるいは廃用による機能低下を引き起こす。認知症高齢者の身体合併症やBPSDについては極力その人の生活の場である在宅で、早期に、迅速に解決することが望ましい。また、どうしても入院が必要な場合は、短期間の入院にとどめ、入院による弊害を最小限にすることが重要である。

終末期の緩和ケア

欧米先進国では、認知症の緩和ケアは最重要課題の一つに挙げられ、様々な実践がなされている。認知症は米国ホスピスでも主たる基礎疾患の一つであり、高齢化する英国社会においても、認知症の緩和ケアは最も重大な課題の一つであることが指摘されている。
1990年代にスウェーデンのBeck-FriisBarbro 博士が、がん患者に対する緩和ケアの理念が認知症の症状緩和にも当てはまることに気づき、認知症の緩和ケアの概念を最初に確立したと言われている。彼女は、認知症の緩和ケアの柱として、①症状の観察と緩和、②チームアプローチ、③コミュニケーション、④家族の支援を掲げている。
ADでは、患者の身体的苦痛の緩和は主に重度以降の時期に必要となる。
重度認知症では、言語で苦痛を表現することができなくなっており、PAIN -ADなどの客観的評価法を用いて、重度認知症患者の苦痛に気づくこと、原因を丁寧な観察と緩和的な手段でアセスメントすることが第一歩となる。重度認知症の苦痛としては、食べられないこと、呑み込めないことに加え、繰り返す肺炎による呼吸器症状、長期臥床と低栄養に伴う褥瘡等の廃用症候群が挙げられているが、これらは基本的に丁寧な看護によってのみ和らげることができる。

【文献】

1)Sachs GA, et al : Cognitive impairment an independent predictor of excess mortality. Ann Inter Med, 155,300-308 (2011)

2)Kukull WA, et al : Cause of death associated with Alzheimer disease : variation by level of cognitive impairment before death. J Am Geriatr Soc, 42 (7),723-726 (1994)

3)Magaziner J, et al : Prevalence and characteristic of nursing home-acquired infections in the aged. J Am Geriatr Soc, 39, 1071-1078 (1991)

4)Lyketsos CG, et al : Mental and behavioral disturbances in dementia : fi ndings from the Cache country study on memory in aging. Am J Psychiatry, 157, 708-714(2000)

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