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かかりつけ医に必要な在宅医療の知識

かかりつけ医に必要な在宅医療の知識(第5回)

在宅医療を始めるにあたって鈴木 央(鈴木内科医院 院長)

はじめに

国民の多くは住み慣れた自宅で療養したいと考える。生活の場にこそ、「人生の内容」がある。その生活を温存しながら、長期間にわたり療養し、可能ならば、「最期のとき」までを療養することは幸せなことである。かりにその人が独居であったとしても、極度に貧困であっても、である。「かかりつけ医の在宅医療」は、それを実現する。

かかりつけ医の在宅医療の重さと深さ

10年、20年と、診させてもらった患者から「最期まで診てほしい」と言われるのは医師として最高の名誉であろう。患者やその家族との深い信頼関係のもとで、最期まで診療することの重さと深さがそこにある。
親身な「かかりつけ医」は、長く診た患者のご家族から、「先生、うちのばあちゃんは、最近、足腰が立たなくなって通院が大変になりました。でも、先生以外の医者にかかるのは、絶対いやと言います。お暇なとき、月に1回でも往診していただけませんでしょうか」というような相談を受けるであろう。真剣に務めた「かかりつけ医」は、必然的に在宅医療に参入する機会を経験する。

かかりつけ医は患者の期待に応えうるか

しかし、「かかりつけ医の在宅医療」が潤沢かというと必ずしもそうではない。「かかりつけ医」が17時になると電話を留守番電話とし、あるいは、在宅医療を実施しないことも多かった。一方、最近、何かと矢面に立つ「在宅医療専門クリニック」だが、この現状に対して、24時間対応型で、「かかりつけ医」が対応不能な患者に広く対応してきたともいえる。かりに、夜間対応するのが当直医・当番医であったにせよ、である。
では、かかりつけ医は、そんなに頼りないかというとそうではない。在宅医療専門クリニックが頑張っているエリアでも、かかりつけ医のトータルな訪問診療患者数は多い。国全体でみても、在宅療養支援診療所以外の在宅医療シェアは大きいと推測され、良心的なかかりつけ医は頑張っている。
在宅医療推進とは、患者のニーズに応えることである。かかりつけ医は、患者との長期の信頼蓄積を有する点で圧倒的に有利な立場にある。多くの患者は「自分の信頼してきた医師に最期の脈をとってもらいたい」と望むであろう。その有利な立場を生かすかどうかは、かかりつけ医にかかっている。

かかりつけ医の在宅医療と24時間対応

1人で行う開業医は、24時間対応できるのか、という問いがある。実は、24時間対応は、実際に行っている医師では心理的負担感が少なく、在宅医療に参入していない医師が強い負担感覚を持つようである。しかし、「日中の予測に基づいて手を打つことで夜間呼び出しを回避しうること」などを経験することで、不安が解消していくことは少なくない。
医師の重要な仕事は「患者の経過を予測」することである。日中の情報収集で夜間に起こりうることを予測し、「予測に応じた治療」や、「起こりうることの説明」「使用するかもしれない頓用薬処方」などを行うことで、日中に大部分の対応を終えることができる。加えて、在宅医療導入直後や、がん末期の場合には、(計画的に)頻回に医師や看護師が訪問するのもよい方法である。「診療終了後に気になる患家に寄って自宅に帰る(病状安定を見とどけてから飲酒する)」医師もある。このうえで、「夜間対応を積極的に行う」と伝えると、大きな安心を与えられる。夜間、電話相談を受ける場合でも、実際には、大部分は予想されている。
医師同士が助け合うシステムはさらに有意義である。機能強化型在宅療養支援診療所はそれが制度として結実したものである。広島県の尾道モデル、長崎県の在宅Dr.ネット、千葉県の匝瑳医師会(現・旭匝瑳医師会)の試みなど、医師同士が助け合うシステムは明らかに進歩し、成果を挙げている。

非がん疾患の在宅医療と看取り

在宅医療は重度の疾患や障害を持つ者の診療であり、必然的に看取りと対面せざるを得ない。非がん疾患患者の予後予測は難しいが、長期経過の中で、患者の希望を聴取し、家族と話し合いを重ねることで看取りへの道程を共に歩むことができる。一方、長期戦になりやすく、家族を支援する社会資源を活用することが重要である。
在宅医療に熟練した医師は、一部の非がん疾患患者よりは、がん患者のほうが最期まで支援を行いやすい印象を持つ。これは非がん疾患患者における、予後予測の困難性、緩和手法の複雑性、長期経過の中で家族が疲弊しうるなどの要因による。
しかし、一方では、非がん疾患では、麻薬使用例が少なく、医療処置も少ない意味において、「在宅医療をこれから開始する医師」には、比較的やりやすいと考える。長期経過の中で信頼を蓄積し、次第に虚弱になるプロセスを診ながら、潤沢な時間を用いて家族の受容を醸成できる意味でも有利である。

かかりつけ医の在宅医療はもっと報われるべきである

「かかりつけ医の在宅医療が報われていないのではないか」という疑問があろう。例えば、在宅療養支援診療所ではない開業医が、年間10人を看取るとしたら、この誠実な労に報いなくてよいのか。この医師は「年間3人しか看取っていない在宅療養支援診療所」よりも対応を行っている可能性が高い。
これは「在宅療養支援診療所というインフラ」、つまり、形式に高い診療報酬がついている矛盾である。その意味では、「常勤医師一人当たりの看取り数」「常勤医師一人当たりの時間外往診数」などで実績ある診療所は、「みなし在宅療養支援診療所」として高い報酬をつけるなどの対応が適当と、個人的には考える。あまり話題になっていないが、介護施設での医学管理料が大幅に削減された2014年診療報酬改定では、在宅療養支援診療所ではない診療所の在宅医療の報酬が引き上げられた。かかりつけ医の在宅医療が国にも認められつつある。私はこのことを高く評価している。

【文献】

1)日本医師会:かかりつけ医の在宅医療 超高齢社会―私たちのミッション(2013)
http://www.med.or.jp/jma/nichii/zaitaku/001706.html (日本医師会の教材映像が視聴できます)

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