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在宅医療の現場から

訪問診療医1日密着

医学部の病院実習の場で、痛みにもだえる多くの患者さんを目の当たりにした。晩年は自宅療養し、苦しむことなく穏やかに息を引き取った祖母の姿を見てきた石賀丈士先生は、「病院の光景はあまりに壮絶でした」と回想する。
 大学病院を経て赴任した山田赤十字病院(現伊勢赤十字病院)では、内科と呼吸器科を掛け持ちしつつ、緩和ケアにも携わった。その後、5年で職を辞し、四日市市のしもの診療所の所長に就任。診療所や介護施設の経営に2年ほど従事し、在宅医療や多職種への理解を深める。この7年は、自身が目標とする「患者さんが満足し、苦しむことなく、人生の最期を自宅で迎えられるよう力を尽くす医療」の実践に向けた、いわば準備期間であった。
 そして2009年7月に、いしが在宅ケアクリニックを開設。わずか数年で、全国でも有数の看取り数、看取り率を誇るクリニックへと育て上げるとともに、現在も患家へ、病院へ、多忙な毎日を送る。
 そんな石賀先生の1日は、これまでのキャリア同様、一切の無駄がない。さらに、日々を生き生きと過ごす患者さん、家族の笑顔にあふれていた。

石賀 丈士先生の取材時の画像。

医療法人SIRIUS
いしが在宅ケアクリニック 院長

石賀 丈士先生

2001.3 三重大学医学部 卒業
2001.4 三重大学附属病院 第二内科
2002.3 山田赤十字病院 内科
2003.4 山田赤十字病院 呼吸器科
2007.4 しもの診療所 所長
2009.7 いしが在宅ケアクリニック 開設

医療法人SIRIUS いしが在宅ケアクリニックの外観の画像。

医療法人SIRIUS
いしが在宅ケアクリニック

所在地: 四日市市山城町770-2
医師: 7名(常勤5名、非常勤2名)
看護師: 9名
医療秘書: 11名
ケアマネジャー: 4名
年間看取り数: 300名(2015年11月現在)
URL: http://www.ishiga-cl.com/

いしが在宅ケアクリニックのオフィス、訪問車の画像。

医師や看護師のQOLを重視した勤務体制を敷いているほか、ITを駆使した組織的な診療を特長とする。重度に特化した在宅専門のクリニックであり、年間の在宅看取り数は、全国でもトップクラス。病院や訪問看護ステーション、介護事業者との連携にも積極的に取り組む。

startAM 7:30

出勤、訪問予定チェック、書類整理

診察室で、その日のスケジュールやカルテなどをチェック。

  • 出勤する石賀先生の画像。
  • オフィスでスケジュールやカルテのチェックを行う石賀先生の画像。

AM 7:55

朝の申し送り

医師、看護師による朝のミーティング。当番医が、前夜の対応を報告した。緊急の往診は3件、看取りは2件あったとし、患者さんの様子や行った処置などについて具体的に説明。

  • 医師、看護師による朝のミーティングの様子。

AM 8:10

一般外来・相談外来

外来診療を担当するのは石賀先生のみ。在宅医療の開始を見込む患者さんの家族を対象に相談外来も行う。カルテ入力は医療秘書が代行、「私は診察に集中できます」と石賀先生。
なお、他の医師や看護師は、準備が整い次第、訪問先に向かう。

  • 診察中の石賀先生と、カルテ入力中の医療秘書の方の画像。
  • 診察室の隣室の画像。訪問の準備中の様子。

    診察室の隣室は、訪問の準備で慌ただしい空気が漂う。

  • 訪問用車に荷物を積む医師と看護師の画像。

    患家には、基本的に医師と看護師のペアで訪問する。

AM 9:30

薬剤師とミーティング、研修医への講義

  • 連携する保険薬局の薬剤師から報告を受ける石賀先生の画像。

    連携する保険薬局の薬剤師が来院し、訪問薬剤管理指導の内容などについて報告。

  • 石賀先生のよる研修医への在宅医療についての講義の画像。プロジェクターとPCを使って説明しています。

    在宅医療の実際やノウハウについて講義。研修医の積極的な受け入れもクリニックの特長の1つ。

Point1
クリニックの経営戦略と四日市モデル

 同クリニックの経営戦略は大きく2つ。1つは「訪問看護ステーションをつくらない」ことだ。クリニックの看護師は日中の訪問診療に同行するのみで、個人で、あるいは夜間の訪問は行わない。これらは外部の訪問看護ステーションに依頼する。背景にあるのは、「地域の雇用を増やしたい、連携力を強化したい」という思いだ。現在、36の訪問看護ステーションと双方向の紹介関係を築いているが、もし自前のステーションを持っていれば、こうした連携は生まれなかっただろう。同じ理由から、ヘルパーステーションなど介護系施設の開設も、石賀先生はまったく考えていない。
 もう1つは、「施設の患者さんや軽症を抱え込まず、重症は無条件で受け入れる」こと。近隣の病院やクリニックには、「軽症例や施設はかかりつけ医の先生方にお任せします」と広くアナウンスしているという。これは「救急がそうであるように、たとえば軽症例や施設を中心にかかりつけ医が対応する一次在宅、在宅特化型クリニックががんや神経難病など困難事例を診る三次在宅という具合に、すみ分けを図るべき」という石賀先生の持論に基づく。ここが曖昧だと、在宅特化型クリニックとかかりつけ医との間で、患者の奪い合いが生じかねない。「急性期病床の削減など、病院の受け入れ能力にも限界があることを考えれば、これからの多死社会は両者が競合するのではなく、共存して在宅患者さんを支えていかなければなりません」と石賀先生。

 同クリニックは、四日市市で初の在宅特化型クリニックとして、2009年に開設された。その後、同市の在宅看取り率は、27%まで上昇。これほど急速に看取り率を高めた中核市は、全国的にも皆無だろう。石賀先生は「私たちだけの力ではありません。すみ分けを図り、かかりつけ医や(常勤医が3名に満たない)在宅療養支援診療所の先生方が、軽症例や施設患者の訪問診療を重ねて自信を深め、看取りが増えた結果でしょう」と語る。地域に核となる在宅特化型クリニックが1つあり、かかりつけ医らと役割を明確に分ける“四日市モデル”とでも言うべき体制が築かれれば、全国平均が横ばいで推移している在宅看取り率を大きく高めることも可能といえるわけだ。  石賀先生は「在宅特化型クリニック」の条件として、「常勤医4名、年間看取り100名以上」との目安を示す。したがって、経営者は医師を集めなければならず、魅力ある職場づくりが不可欠となる。同クリニックの場合、月に7、8日の夜間当番はあるが、17時終業/土日祝日休み/有給休暇全消化など、働き手のQOLを意識した勤務体制を敷く。なおかつがんや神経難病、緩和ケアなど重度に特化し、その分野を志向する医師であれば、大きなやりがいを見出せる職場となっている。

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