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在宅医療の現場から

特集 地域から求められる薬局・薬剤師~eお薬さん®の活用~

薬剤師が専門職として患者さんのために何を行うべきか。保険薬局が地域のために何を行うべきか。薬剤師が「かかりつけ」としての役割・機能を発揮するためには、調剤業務など薬局内業務だけではなく、在宅医療やアウトリーチなど薬局以外の場所での業務を行うことが求められている。このような業務を行う基盤として、かかりつけ医をはじめとした多職種・他機関と連携することはもとより、地域に溶け込み、信頼を得ることが重要となっている。
「地域医療への貢献を目指して地域に根ざした医療サービスの提供を行うよう努力する」をグループ理念として掲げ、工夫を重ねる中央薬局日赤前店を訪ねた。

残薬が捨てられていた!

中央薬局日赤前店は深谷赤十字病院に隣接する2006年開設の調剤薬局である。エーザイ株式会社が開発した服薬支援機器「eお薬さん®を試用し在宅の患者さんの服薬率向上の面で大きな効果を実感しているという。薬局長の大竹真史先生に話を聞いた。
大竹先生が残薬について考えるきっかけの一つとなったのは開設間もないころの体験だという。

「私はこの薬局がオープンしたばかりの10年ほど前に、とてもショックな経験をしました。仕事の帰りに、深谷駅のごみ箱の中にうちの薬局の薬が薬袋のまま入っているのを見つけたのです。患者さんが落としたのかと思ってそれを拾って、電話したんですね。そうしたら、お渡ししたばかりの薬だった。前回の薬がほぼ全部、残薬になっていために、もらったばかりの薬をごみ箱に捨てていたというわけです。その患者さんには何度か服薬指導をしていたのにその方の気持ちに入っていなかったし、何も聞けてなかったということに気づき、とても反省しました。ここ数年、残薬の問題がよく言われていますが、あの時の衝撃は私の患者さんへの関わり方、残薬についての姿勢を大きく変えました」

残薬チェックで患者さんの服薬アドヒアランスの向上へ

中央薬局では、来局する患者さんに残薬について聞き取りをするほか、残薬を全部持ってきてもらったり、薬袋や薬剤情報提供書の余白に残薬の数を書いてきてもらったりするなど、患者さんの協力を得て実態を把握するようにしている。
日ごろのコミュニケーションが良いために患者さんは協力的で、中には残薬を持って来てくれる人や、診察前に薬局へ寄って、残薬確認をする人もいるという。

「最近は、病院からの処方箋に残薬調整可と書いてあるものがあります。減らす分に関しては薬局での調整に任され、残薬を薬局でチェックして調剤し事後にファックスで病院に知らせるというシステムです」(大竹先生)

残薬チェックにより患者さんの関心・理解を促すことは、患者さんの服薬アドヒアランスを向上させ、治療をスムーズに進めるために非常に有効である。これこそ、専門職としての薬剤師の出番といえるだろう。

「eお薬さん®」で服薬率が向上したAさん※使用感は個人の感想です。

残薬を減らすために大竹先生が試用している「eお薬さん®」は、薬を飲む時間にタイマーをセットしておくと、その時間に人間の声で服薬を促す音声が流れて薬の入ったトレーが出てくるというITを活用した服薬支援ツールである。薬が出てくるだけでなく、患者さんがトレーから薬を取り出すとセンサーが働き通信システムでその情報がクラウドに転送され、在宅医、薬剤師、家族、ケアマネジャーなど最大5件にメールを配信してスマートフォンなどの端末で確認することができる。蓄積された服薬履歴は後でクラウドで見ることもできるためそれで患者さんの服薬傾向を見て検討することも可能だ。
「eお薬さん®」を利用しているのは、自宅で暮らす認知症のある80歳代の女性Aさん。次男一家と二世帯住宅に住み、東京都内に住む長男が2週間に1回訪れて開業医2軒への通院の付き添いをしている。次男夫婦は昼間外出する事が多く日中独居という環境である。
「Aさんは8種類の薬を服用しているのですが、1カ月の残薬をチェックすると服用率が約7割で、お渡しした薬の3割を服用していない状態でした。ご本人は認知症ですし、ご家族による確認も難しい状態でしたので、『eお薬さん®』をお勧めしたのです。ご自宅に設置をした際には認知症の人に機器によるサポートがなじむだろうかという懸念もありましたが、使ってみたところその効果にびっくりしました。1カ月使ったところで、服用率はなんと30日間のうち飲めなかったのが1回だけの98%という好成績だったのです。ご家族によると、Aさんは時間になる少し前にeお薬さん®の前に座って待っているのだそうです。人間の声で服薬を促されるということで、服薬支援ツールの域を超えて、コミュニケーションツールとしても機能しているのかもしれません。また服薬情報が転送されるため、ご家族にとっては安否確認につながるのです」と大竹先生。
患者さんの飲み忘れを防ぐだけでなく、専門職等の関係者にとっては情報共有、家族にとっては安否確認、本人にとってはコミュニケーションなど「eお薬さん®」にはたくさんの利点があることを実感しているという。
まだ事例は少ないが、一人暮らしの認知症の患者さんが在宅で暮らし続ける可能性を広げるツールとなるかもしれない。

ポリファーマシーの解消に向けて

中央薬局日赤前店では現在、3人の薬剤師が慢性期、終末期など8人(取材時)の在宅患者さんへの訪問を行っている。
大竹先生は、「時々訪問診療時に薬剤師が同行し、その場で薬についての提案をするということも重要だと思っています。患者さんに薬の専門職として説明することもできますし、訪問医に薬剤師の立場から減薬等を提案することもできると思うのです」と、薬剤師の医療へのかかわりに積極的な姿勢だ。
高齢者には複数の医療機関を受診しているケースも多く、一つ一つの疾病に対して薬が増えていく傾向があるためポリファーマシーの問題も起きてくる。薬剤師にはポリファーマシーの解消に向けた役割も求められているのである。
「Aさんですが、1カ月使用したところで3週間ほどいったん「eお薬さん®」を一度引き上げる機会がありました。薬は以前行っていたお薬トレーで管理したところ、残薬率が元に戻ってしまったのです。3週間後に「eお薬さん®」を設置しなおすと再び100%近い服用率になりました。今後かかりつけ薬局として患者さんの支援をするにあたって、「eお薬さん®」の活用で服用率が上がりアドヒアランスが向上すれば、残薬を減らすことができかもしれませんし、ポリファーマシーの解決にもつながる可能性を感じています」
この点について、長年に亘りポリファーマシーを研究されている国立保健医療科学院統括研究官の今井博久先生も、「服薬支援機器などを利用して服薬管理をしっかり行うことでコンプライアンスが改善され、ポリファーマシーの解消にも繋がる」と、服薬支援機器に期待を寄せる。

取材をした日、深谷赤十字病院では「埼玉県北部薬薬連携協議会研修会『ポリファーマシー解消への秘訣!』」が開かれ、埼玉県北部の病院や薬局の薬剤師、およそ100名が集まった。 薬局の薬剤師、病院薬剤師からのポリファーマシー解消に向けた取り組みの報告、今井博久先生のレクチャーが盛り込まれ、ポリファーマシーに関しての薬剤師の役割が大きくクローズアップされた研修会となった。
少子高齢化、地域包括ケア、多職種連携、かかりつけ薬剤師の推進など、社会の変化に伴って薬剤師や保険薬局の位置づけは大きく変容しつつある。厚生労働省としても「患者のための薬局ビジョン」を発出し、薬局全体の改革を図っている。
最後に大竹先生は、「eお薬さん®」などを活用して、医師にも患者さんにも積極的にかかわっていくことで、地域で真に求められる薬局となっていきたいと展望を述べた。

※ポリファーマシー 一般的に多剤投薬のこと。薬剤にもたらされる害が利益を上回るような多剤投与。

※見守り支援機能を搭載した服薬支援機器「eお薬さん®
製品に関する詳細は、eお薬さん®のサイトをご覧ください。
http://e-okusurisan.com/

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