今後も増加する高齢発症てんかん
大切なのは、てんかんを知り、その可能性を疑う姿勢
脳卒中とは別に、入院・外来を問わず、同院で患者数が増えている疾患がある。てんかんだ。特に高齢発症てんかんの増加が顕著で、その中には脳卒中の治療を受けた患者さんが、退院後にてんかんを発症するケースも含まれるという(図1)。
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65歳以上で初発したてんかん患者のうち、約半数は原因と考えられる病変は認められなかった。残りの半数のうち原因疾患として最も多いのが脳血管障害である。
てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究より作図
「当院に限らず、最近は高齢発症てんかんの患者数が増加傾向にあります。てんかんは小児を除けば高齢であるほど発症数が多くなるとされ(図2)、今後も高齢化が進むと患者数はますます増えていくことになります。いまやてんかんは“common disease”なのです」
だとするなら、高齢発症てんかんは地域の開業医が対応すべき疾患の1つといえるかもしれない。まず求められるのは、てんかんを疑った際に速やかに専門医につなげること。だが、高齢発症てんかんはけいれん発作が起こらないことも少なくない上、軽微な意識障害や失語、麻痺など多様な症状を呈する。心血管障害や精神科的疾患、認知症など鑑別を要する病態も多い(図3)。
1) 心血管障害 | 失神、けいれん性失神、心不全、不整脈、など |
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2) 脳血管障害 | 一過性脳虚血発作(軽度の意識障害を伴う場合)、など |
3) 片頭痛 | 脳底型片頭痛、など |
4) 薬物中毒 | アルコール離脱、各種中枢神経作用薬、など |
5) 感染症 | 急性脳炎、慢性脳炎、寄生虫感染症、敗血症など |
6) 代謝性疾患 | 低血糖、高血糖、電解質異常、甲状腺機能障害、ポルフィリア、高炭酸血症、など |
7) 睡眠異常症 | レム睡眠異常症、周期性四肢運動障害、夢遊症、夜驚症、など |
8) 精神科的疾患症 | 心因性非てんかん性発作、うつ病、解離性障害、遁走、双極性障害、不安神経症、など |
9) 一過性全健忘 | (反復することもある) |
10) 認知症 | アルツハイマー病、など(症状の変動を示す場合) |
「重要なのは、まず高齢発症てんかんがどのような症状を呈することがあるのかを理解すること。その上で、鑑別すべき病態に遭遇したときは、てんかんの可能性も疑ってみることです。たとえば近年、高齢発症てんかんが認知症と診断される事例が増えています。当院でも、急な記憶障害、行動異常がみられ家族から認知症ではないかと心配され、紹介・初診となったケースがあります1)。仮にこのとき、高齢発症てんかんでも記憶障害が生じるという知識があれば、図4のチェックシートを用いるなどしててんかんの可能性も疑い、専門医に診断を依頼することもできるのではないでしょうか」
1)森田 幸太郎ら.: 新薬と臨牀.,66(7),933-937(2017)
服薬コンプライアンスを維持するために
高齢発症てんかんは診断に困難を伴う反面、薬物治療の奏効率は高い。したがって、発作を予防するためには服薬コンプライアンスを維持することがポイントとなる。
「小児あるいは難治性てんかんと比べ、高齢発症てんかんは少量の内服薬でも発作をコントロールしやすいとされています。数ある抗てんかん薬の中から、副作用なく発作を抑えることのできる薬剤を選択することができたなら、それをきちんと継続していくことが大切です。このとき注意しなければならないのは、発作がしばらく出現しなかったとしても、てんかんが完治したわけではないということ。薬を中止したり減量したりすると再発してしまうため、繰り返しになりますが服薬を続けることが重要です」
図2に示したように、てんかんは高齢であるほど発症数が増える。認知症の原因疾患として最も多いアルツハイマー病の好発年齢は70歳前後とされる。高齢発症てんかんの患者さんが認知症を併発しているケースも決して稀な事例ではない。したがって服薬コンプライアンスを維持するには、服薬回数を減らすなどの工夫が重要となる。
「高齢発症てんかんの患者さんと向き合う際は、実際がどうあれ[この方はコンプライアンスがよくない]くらいの認識で、薬物治療を考えていくべきだと思います。そういう意味では、ペランパネルは使いやすい薬剤の1つではないでしょうか。服用回数が1日1回であることに加え、消失半減期も長く、仮に1回服薬を忘れたとしても、それが原因で発作を起こす可能性は低いと考えられます。」