病院での退院支援が、より良い在宅療養につながったことを報告
在宅医療の質を考えたとき、病院との緊密な連携が重要になることは言うまでもない。同診療所と病院の相互理解、関係性を深める一助となっているのが、連携部が行っている退院後報告だ。患者さんや家族から同意を得た上で、退院後1~2カ月を目安に、在宅での経過や療養生活の状況などについて、写真とともに紹介元病院の退院支援部門に報告している。
「私たちも患者さんや家族からお手紙をいただくことがあるのですが、たった一通でもモチベーションは大きく高まります。同じように、病院での退院支援がより良い在宅療養につながっているという事実をお伝えすることによって、退院支援部門の方々は自分たちの貢献を実感でき、大きな励みになると思うのです。ちなみに、患者さんと行き違いがあったなど、当診療所で課題とすべき内容も包み隠さず報告させていただくようにしています」
このほか、同診療所が受け持つ患者さんが入院となった場合は、医師からの診療情報提供書とは別に、連携部からも在宅での状況をまとめたサマリー情報を病院に提供しているという。
そしてもう一つ、連携部では大切にしていることがある。自分たちの都合で動かず、相手に合わせるということだ。
「たとえば事務作業のあり方は、病院によってさまざまです。書類のやり取り一つとっても、郵送、手持ち、FAX、メールなど、どのようなやり取りを望むかは病院によって異なります。そうした細かい点も含めて、相手のスタイルに合わせた対応を心掛けています。連携部では対外的なやり取りに関するルールは一切設けていません」
連携部の今後。外来診療への同行も視野に
同診療所に勤める前は、大学病院の看護師だった針生さん。仕事自体にやりがいは感じながらも、たとえば90歳を超えた人が呼吸器を装着され心臓マッサージを受けている場面などを目にしたときは、本当にその人に必要な医療なのか疑問に思うこともあったという。
転機となったのが2011年の東日本大震災だ。ボランティアとして被災地入りし、そこで同診療所の現院長である安井佑先生と出会う。「一緒に在宅医療をしないか」と誘いを受け、承諾。2013年4月の開設時から、いわゆる創業メンバーの1人として同診療所の躍進を支えてきた。
「安井も私も在宅医療の経験はなく、医療以外のサービスや制度など、とにかくわからないことだらけでした。強みといえば、わからないことを素直に聞くことくらい。その都度、地域の訪問看護師やケアマネジャー、病院の看護師やMSWの方々に教えを乞い、少しずつ前進してきました。私たちの今があるのは地域の方々のおかげだといえます」
安井先生と針生さんを含めて3名で開業した同診療所。わずか5年で80名を超える組織へと成長した。連携部も設置され、針生さんが1人で行ってきた病院や地域との調整業務も現在は5名のMSWが担当する。連携部のフットワークはとにかく軽い。たとえば、入院することなく、在宅医療も必要ないという救急患者について相談を受けたとしても、何らかの支援を行わなければ再度、救急搬送のリスクがあるということであれば、すぐに病院に向かう。
最近は新たな取り組みも試行し始めた。外来診療への同行支援だ。
「在宅医療を受けていても外来を受診する患者さんはいます。ですが、高齢だったり、認知機能の低下が進んでいたりする場合、外来受診時にどんな説明をされたのか、在宅の医師やスタッフに要領よく伝えることは簡単ではありません。はっきりとした青写真があるわけではないですし、外来に同行するとそれだけで半日かかるなど課題もありますが、連携部として在宅と外来をつなぐようなサポートをしていきたいと考えています」
意外なことに「学生のころは在宅医療にあまり魅力を感じていませんでした」と振り返る針生さん。見ず知らずの人の家に上がることに抵抗感があったそうだ。だが、数えきれないほど患家の敷居をまたぎ続けた今は違う。自身の経験や連携部の役割、今後の目標などを感情豊かに話すその様は、どこからどう見ても在宅医療の奥深さに魅了されているようにしか見えなかった。