【医療法人博愛会 頴田病院】
倉庫の一画から始まった、“望みを叶える在宅医療”
取材日:2019年10月29日(火)
福岡県飯塚市 頴田病院
外来から病棟、在宅まで一貫して支える一気通貫型医療を実践する頴田病院。Clinician@Home 2020冬号では、院長の本田宜久先生へのインタビューを元に同院が取り組んできた経営再建の舞台裏を紹介した。本稿では“望みを叶える在宅医療”というビジョンを掲げ、同院が展開している在宅医療の現状やこれまでの歩み、ノウハウなどにスポットを当てる。
医療法人博愛会
頴田病院
- 所在地:福岡県飯塚市口原1061-1
(以下、在宅医療センターのデータ) - 医師:25名(非常勤医、研修医、専攻医を含む)
- スタッフ:看護師11名、看護助手1名、事務11名、理学療法士5名、作業療法士4名、言語聴覚士1名(病棟兼任)
- 在宅患者数:約280名
- 看取り数:128名(2018年度実績)
-
在宅医療センター長
望月 一生先生 -
在宅医療センター
看護師長
山中 ゆかりさん
年間訪問数は約8500件。在宅看取りも100件超える。
訪問診療 | 7572 |
---|---|
往診 | 988 |
(緊急往診) | (364) |
年間訪問件数 | 8560 |
頴田病院(以下、同院)が在宅医療を開始したのは2008年のことだ。2010年には在宅療養支援病院(以下、在支病)の届出を行い、現在は医師や看護師、リハビリテーション(以下、リハビリ)スタッフら総勢60名余が在宅医療に従事している。月平均の訪問件数は700件超。訪問診療と往診を合わせた年間の訪問数は約8500件(図1)。厚生労働省が公表する[主な施設基準の届出状況等]によると2018年の在支病届出数は1345施設となっているが、その中で同院と同水準の在宅医療を展開している医療機関は、おそらく数えるほどしかないだろう。
医師と看護師のペアでの訪問が同院の基本スタイルだ。在宅医療センター長の望月一生先生はその理由を次のように説明する。
「当院では常勤医のみならず若い研修医や専攻医、週1日勤務の非常勤医など多くの医師が在宅医療に携わり、患家を訪問します。病状はもちろん家庭環境なども含めて患者さんのことをよく知る看護師が同行し、情報をあらかじめ伝えておくことで、どの医師が訪問してもスムーズな診療が可能になります」(望月先生)
訪問件数はここ数年ほぼ横ばいだと望月先生は言う。だが、在宅看取り数は年々増加傾向にある(図2)。これは重症例、主に終末期のがん患者の受け入れが増え続けていることを意味する。2019年1月の時点で、がんや難病など重症者の割合は約30%。同院はこの地域の在宅医療を支える拠点、いわば“最後の砦”といえるだろう。
がむしゃらに積み重ねてきた診療実績
同院は10数年前まで億単位の赤字を抱えるなど苦境に立たされていた(Clinician@Home 2020冬号『地域医療の現場から』参照)。経営再建の一環として在宅医療にも取り組むことになったわけだが、決して楽な道のりではなかったという。在宅医療センター看護師長の山中ゆかりさん「始まりは倉庫の一画でした」と振り返る。
「最初は医師数名が中心で、看護師も2名だけ。人員不足は顕著で、電話対応はもちろん、社会調整や事務作業なども倉庫の片隅で看護師が行うような状況でした。それでも患家を訪問すれば患者さんやご家族からのニーズは実感でき、[来てくれてありがとう]という言葉には何度も救われました。肉体的にはハードでしたが、気持ちが折れることはなかったです」(山中さん)
病院としても実績のない部門にいきなり多くの人的資源を投入することはできない。「がむしゃらに頑張るしかなかった」と山中さんは苦笑する。軌道に乗り始めたのは、厚生労働省の在宅医療連携拠点事業に採択された2012年以降。在宅連携室が設置され、医師、看護師、リハビリスタッフ、MSW、事務職員が同一フロアで業務を行う体制が整った。その後も徐々に人員は増え、2014年4月には新たな建物も完成。2015年には在宅医療センターに改称した。並行して地域の多職種との連携にも力を入れてきた。2019年10月現在の連携機関は保険薬局が52店舗、訪問看護ステーションが33事業所、居宅介護支援事業所が112事業所となっている。
中小病院が在宅医療に取り組む意義
同院の病床数は96床。世間的な言い方をすれば中小病院だ。このような病院が在宅医療に取り組む意義はどこにあるのだろうか。
「急性期から当院に転院してきたケースでは、まずリハビリを行うなどして症状が落ち着いた段階で、退院、在宅医療に移行します。その後も家族のレスパイトや症状の変化があった場合は、再び入院し、安定すればまた自宅に戻ります。入院から在宅まで一貫して支えられるということが最大の意義でしょう。同じ病院のスタッフが入院と在宅を支えるわけですから、退院時カンファレンスもやりやすいです」(望月先生)
同一病院が対応するため、入院から在宅、その逆も含め療養場所が変わることによる患者さんや家族の負担、不安は最小限に抑えられる。さらに医療の質を担保しやすいという一面もある。
「院内で異動があることから、当院には病棟と在宅の両方を経験している看護師やリハビリスタッフがいます。このため退院後の療養生活をしっかりとイメージしながら入院中のケアを行うことができます。入退院時の連携もスムーズです」(山中さん)