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かかりつけ医に必要な在宅医療の知識

かかりつけ医に必要な在宅医療の知識(第9回)

多職種連携・地域連携を活かす在宅医療草場 鉄周(北海道家庭医療学センター 理事長)

病院完結型から地域完結型へ

日本の医療がこれからも現行の水準を維持することができるかは、超高齢社会の到来を目の前にして、戦後長く続いた病院完結型から地域完結型の医療モデルにいかにしてシステムを作り変えることができるかという点にかかっている。そのための施策が地域医療構想であり、地域包括ケアシステムなのである。
地域医療構想は2次医療圏単位で主として病院の役割を見直し、高度急性期、急性期、回復期、慢性期といった入院患者の病像に合わせた機能を設定するものである。また、地域包括ケアシステムは重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムである。
つまり、地域医療構想を通じて徐々に病院の役割が整備され限定される中で、地域包括ケアシステムが多くの高齢者の生活を支える役割を果たすという構図が描かれている。限られた財源、医療資源を有効活用し、最善のケアを提供するためには必然的な帰結と言ってよいだろう。
在宅医療の広がりはコミュニティーを病棟と捉える地域完結型モデルの成功の鍵を握っている重要なファクターであり、病院で展開されているような多職種連携を〝地域〞というフィールドでいかに実践できるかが極めて重要である(図)。

在宅医療における他職種連携を示した図。患者や家族を中心に、医師や看護師、ケアマネなどいろんな人がかかわります。

病院のように同一の法人、施設の職員のみでチームが完結することはない以上、異なる理念や勤務環境、さらに職業意識を持つ人々が「患者への最善のケア」を旗印に集結できるかどうか。言うは易く行うは難し、とはまさにこのことである。

在宅医療における多職種連携の3つのステップ

在宅医療の現場では、脳梗塞後遺症、慢性心不全、慢性呼吸不全、末期の悪性腫瘍など様々な健康問題が扱われ、患者の多くは後期高齢者であり、介護力の脆弱さもあって、医療・介護の強力な連携体制が必須である。特に、認知症患者の在宅診療については、介護者の肉体的負担のみならず心理的な負担が非常に大きく、多職種が連携しながら効果的な診療やケアを提供する意義はさらに大きくなると言ってよい。
多職種連携のためには3つのステップとして、個々の点としての医療・介護施設の強化、線をつなぎ太くする連携の強化、さらに地域全体で面として広がるための工夫が求められる。そのどれが欠けても、真の協力体制の構築と持続は難しい。

ステップ1:在宅医療の担い手の確立

まず、在宅医療を担う医療機関の中核である在宅療養支援診療所・病院、さらには単独あるいは連携での強化型在宅療養支援診療所が存在するかが重要である。前者は患者・家族との24時間の連絡体制、24時間往診可能な体制、24時間対応可能な訪問看護との連携、緊急時の検査や入院を目的とした医療機関との連携、地域の介護・福祉サービス事業所との連携が必須となっている。また、後者についてはこれらの要件に加えて、在宅診療に従事する医師が2人以上在籍し、年間での緊急往診や在宅看取りの実績があることが求められている。
日本の多くの診療所がソロプラクティスであることは、24時間対応の大きなハードルになっており、在宅医療の普及が遅れる最も大きな要因となっている。そのため、複数の1人診療所が連携して強化型の要件を満たすことも認められており、地域での診診連携が強く求められる。また、一般診療所と強化型在宅療養支援診療所が連携して夜間・休日のバックアップを行う試みもあり、一考の余地があるだろう。
さらに、こうした診療所と両輪をなすのが訪問看護ステーションである。多くの在宅患者のファーストコールは訪問看護師であり、生活上の問題から様々な症状まで幅広く対応できる。訪問看護の力量が高い場合は、1人診療所でも緊密な連携で24時間対応が比較的容易になることもあり、その活用は在宅医療普及の鍵を握ると言ってもよい。
さらに、患者の健康問題に応じて、訪問リハビリテーションによる生活機能の維持・向上、訪問薬剤師等による服薬指導や薬剤管理が可能になると、ケアの質がぐっと高まる。訪問歯科診療、訪問栄養指導との連携も口腔機能の向上や過不足ない栄養状態の確保のためにますます重要になりつつある。
こうした医療的サービスに加えて、訪問介護(ヘルパー)、通所介護(デイサービス)、短期入所(ショートステイ)といった介護サービスを利用して生活を支えることになるが、その際はケアマネジャーの役割が極めて大きくなる。

ステップ2:患者ケアを通じた密接な連携体制

こうした個々の事業所が活動するためにも連携が欠かせない。すでに述べたとおり、医療の面では在宅療養支援診療所・病院と訪問看護ステーションの連携が中核となる。また、訪問看護から見えてくる生活上の課題を介護サービスで補うことも必要となり、情報交換は欠かせない。
連携においては従来からの情報提供書などの紙媒体がまだ主流ではあるが、徐々にITを活用した情報共有体制の構築が様々な地域で進みつつある。クラウド型のデータベースを構築し、集約された患者情報に様々な職種がアクセスできることで、紙のやり取りも減り、新しい情報の入手が容易になる。今後は社会インフラとして整備されることが期待される。また、関係職種が一堂に会しての在宅ケア会議の開催が必要になることもある。特に、ターミナルケアなど複雑なケースでは意思統一が欠かせず、顔の見える関係作りも非常に重要である。
また、後方支援病院との連携体制ももう一つの大きな連携の柱になる。急性期の入院治療が終わり退院後の在宅医療が選択肢に挙がるときは、病棟で退院前カンファレンスを行うとスムーズな導入が可能になる。その一方で、患者の状態が急変した際に、スムーズに検査や入院治療を行うことができる連携体制も欠かせない。他には、地域包括ケア病床や介護老人保健施設(老健)などを利用したレスパイトケア目的の短期入所でも連携が必要となる。

ステップ3:地域全体での連携体制作り

こうした個別ケースの連携を通じて、地域が抱える課題が浮き彫りになってくる。その際に、そうした課題を共有し、解決のためのネットワークを作ることが重要となる。事例検討を行い、レクチャーを通じた知識の共有を図ることで、専門職の垣根を越えて互いから学び合う土壌が徐々に形成されていく。そうした場を作るために、市町村や保健所などの行政、あるいは医師会や各種職能団体がリーダーシップをとることも時には必要になるだろう。
こうした地域全体の連携体制が強化されると、個々の事業所の活動に依存しすぎることなく、地域が自律的に在宅医療を提供し続ける環境が醸成されていく。

最後に

在宅医療をスムーズに提供できる環境作りは、多職種連携によって充実した地域医療・介護体制を構築することに他ならない。これは、住み慣れた環境で地域住民が医療・介護・福祉サービスを安心して受けることのできる地域包括ケアシステムの基盤となる。多くの地域で、在宅医療を通して地域の魅力が高まり、住民の生活の質(QOL)が高まることを切に期待したい。

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