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かかりつけ医に必要な在宅医療の知識

かかりつけ医に必要な在宅医療の知識(第10回)

高齢期を過ごす心構え~患者さんに何を話すか?~英 裕雄(新宿ヒロクリニック 院長)

はじめに

こんなはずじゃなかったという言葉を高齢者から聞くことが多い。ここまで長生きするとは思わなかったと言われることもある。高齢期に対する準備は、たいていの場合難しい。
様々な予測不能な事態が待ち受けている。しかも徐々に虚弱化が進む高齢期に、自分がどこまでできるのかも甚だ不安だと言う。そんな相談をかかりつけ医に求める患者さんも少なくない。そんなとき、かかりつけ医が患者さんに意義深い示唆を与えたり、準備を促すことはとても大事なことだと思う。本稿では、かかりつけ医として患者さんに高齢期の準備をどのように促すべきなのか考えてみたい。

高齢期を迎える準備

男女ともに平均寿命は80歳を超えた。今や100歳を超える人も少なくないのが実情である。その中で年金制度の限界なども叫ばれ、長期化する高齢期をどのように過ごすかは、大問題である。それぞれが自らの高齢期をクリエイトしていかなければならないのが、今の時代なのであり、この高齢期を有意義に過ごすも、無為に過ごすも本人次第と言わざるを得ない。
貯蓄や年金などに頼れないならば、仕事ができるうちは、なるべく仕事をし続けることも必要だろう。社会との接点を持ち、高齢者が高齢者を支えあうボランティア活動などに従事することも、今後の高齢者にとって何より大切な生き様となる。そんな心構えを伝えることは、フレイル予防や引きこもり予防にもつながる生活指導の一つと言えるかもしれない。

高齢期の虚弱化の進行とは

高齢期になると、視力低下や運動能力低下などから、活動性が低下してくる特徴がある。最初は遠方への外出が困難になり、その後日常生活圏への外出(銀行や買い物など)にも苦労することが多くなり、ついには自宅内での移動も一人ではままならない状況になる高齢者が少なくない。
このような高齢期の移動能力の低下を見越すと、一般に早期からのバリアフリー環境の導入などが勧められる場合があるが、筆者はあまり推奨しない。その理由は、実際には多くの高齢者は、家具や室内の特徴をうまく利用しながら室内移動していて、必要最小限のバリアフリー化で済ませており、大きな住宅改修は不要なことが少なくないからである。
例えば、車いすになった場合には、確かになるべく広くフラットな空間が好ましいが、何とかつかまり歩きをしている場合などには、逆に空間を最小限にして、動線を取り巻く家具などをうまく使いながら移動することが多いのである。
またベッド上に寝たきりになった場合には、ベッドの導入や介護者の動線確保、さらには時に入浴サービスの利用がある場合などは、ある程度の空間の確保が好ましい。
このように高齢者が過ごしやすい家とは、一概にバリアフリーがよいとか、手すりをつければいいというものではなく、もともとの社会生活の在り方や、その時々の日常生活動作(ADL)、介護状況などによって大きく左右されることに留意が必要である。

虚弱化の過程で大事なこと

虚弱化が進行したときの高齢者の対応には、大別すると二通りあるようだ。 一つは、早めにSOSを出して助けを求め、困っていることを発信する場合だ。家族や身近な人の手助けが何より心強いが、そういう家族がいない場合も多く、昨今は、自宅に居ながらにして、様々な医療、介護、生活支援などのサービスが受けられるような社会整備が進んできた。自宅でもかかりつけ医を受診しながら、介護サービスの導入などで生活の様々な支援体制を整え、生活上の困ったことがないよう整備していく体制がとれるようになってきているので、これらサービスの導入を拒まない方は、かなりの生活支援が提供されている。 一方で、人に頼ろうとせず、自分で生活の仕方を変えることで、対応しようとする人もいる。買い物に行けなければ宅配で代行したり、掃除や洗濯が完璧にはできなくてもできる範囲だけで行っているうちはいいのだが、少しずつ不衛生な環境になったり、衣類や食物も限られていき、それに伴い生活が変容していくことも少なくない。そのときに周囲の人が見かねて何とか支援の手を差し伸べようとしても、本人がサービス導入を受け入れないとなったら、さらに状況は悪化する。このような高齢者の特徴として、さらに性格や態度がかたくなになり、いずれは友人や親族の来訪さえ断るという人も出てきてしまう。「以前どおりというわけにはいかないが、自分なりの生活ができているので、ほっといてください」と強く言われれば、周囲の人もそれ以上の介入はできない。いわゆる引きこもりや、ごみ屋敷、不衛生環境などはこのようにして出来上がることが少なくないのである。 このように手助けを拒む人の特徴は、自立心が旺盛だということである。自立心が人に頼らせないばかりか、人を寄せつけなくなってしまう。その結果、虚弱化したときの適切な介護や生活支援、医療的支援などが全くされずに困窮状態(本人は困窮状態とは思っていない?)を作っていく。今頑張っている人にぜひその点ご留意いただきたいと思う。「老いては子に従え」「老いては周囲に従う」という心持ちも大事なようである。

まとめ

本稿では、様々な高齢者の終末期医療としての在宅医療を担う医師として、より健全に高齢期を過ごしていただくために、患者さんにどのような準備が必要か、自戒の意味も込めて筆者なりに考えてみた。
かかりつけ医にとって大切なことは、それぞれの地域における高齢期療養の実情をより若い人たちに伝え、よりよい老後の過ごし方の指導をすることではなかろうか?
私なりに高齢期を過ごす心構えで重要なことは、健康に留意しつつ、働ける限り働き、働けなくなっても少しでも社会性を保つためには、高齢者に対するボランタリーな活動などを行い、今後虚弱化する自分の老後に備え、リビングウイル、アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)なども大事だが、むしろ周囲との協調性が重要であり、日本古来言われてきたように老いては子に従えというものである。そして高齢期たとえ独居となっても、老いては社会に従い、感謝をもって老後を送るべきと考えている。

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