嚥下障害(摂食嚥下障害)
◆在宅医療における嚥下障害
“在宅医療のcommon diseaseとされる脳卒中やアルツハイマー型認知症では、摂食嚥下障害が高率に発生し、特に脳卒中の急性期では約3分の1に発生するとされている。”※1
摂食嚥下障害によって、次のような問題が引き起こされる。
誤嚥性肺炎や窒息
“嚥下障害がない人に比べ、約20倍肺炎のリスクが高くなる。”※2
脱水と低栄養
①夏の暑い時期に経口摂取が低下することで脱水となり、それが引き金となり脳梗塞→麻痺悪化→嚥下障害悪化→さらに脱水→脳梗塞といった悪循環に陥りやすくなる。
②経口摂取しないことによって咽喉頭の筋肉が低下し、サルコペニアが進行する。
③低栄養によって咽喉頭の筋肉が低下し、さらに食べられなくなる悪循環が生じる。
食べることの楽しみの喪失
高齢者において大きな喜びである『食べる』ことの楽しみが奪われる。
◆嚥下障害の診断
・最も多い主訴は、痰がからむ、むせる、である
・食事中の咳やむせ、食事時間の延長、間欠的な発熱の有無、などの問診が重要。
・身体診察では、体重(標準体重比、体重減少率)、体温や意識レベル、呼吸状態をチェックする。
⇒空嚥下を実施(ごっくんと指示してから嚥下反射が1秒以内に起こるかどうかを見る)。
・神経所見では、無症候性脳梗塞の疑い(軽い麻痺、バレー兆候)や深部反射の左右差、上下肢の病的反射の有無をチェックする。
・口腔内のチェックは必須である(口腔内の清潔さ、唾液の状態、舌の曲がり方など)。
・ベッドサイドアセスメントとして、唾液反射嚥下試験(RSST)や30㏄水飲みテスト(WST)が用いられる。
・S-SPT(簡易嚥下誘発試験)の実施
在宅医療におけるベッドサイドアセスメント法として最も有用な検査。本検査は口腔内清払後、臥位にて水を充填した細いエクステンションチューブを中咽頭に挿入し、水を注入し、注入から嚥下反射誘発までの時間を測定する(健常者では0.4ccの少量の水で嚥下反射が誘発される)。
S-SPTの結果、経口摂取が判断されたA群では食物テストによる評価を行い、プリン摂取でむせがない場合は、段階的に直接嚥下訓練に進める。経口摂取が困難とされたC群については、直接嚥下訓練は行わず、全身のリハビリテーションを進め、間接嚥下訓練を実施する。
※公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト P57より作図
◆嚥下障害の治療
薬物療法
ドパミン代謝の低下により咽喉頭のサブスタンスPが低下する。“高齢者では痰の中のサブスタンスPが正常の1/7まで低下”※3 していることから、ACE阻害薬で咽喉頭のサブスタンスPを増やすことによって嚥下反射や咳反射が改善する。また、塩酸アマンタジンはドパミン放出を促すことから咽喉頭のサブスタンスPを増加させ、肺炎の発症を予防する(寝たきりの患者に対しては未確認)。高齢者に安易に咳止めは使わないようにする。
嚥下リハビリテーション(以下リハ)
・嚥下リハは、①患者さんの嚥下機能、②介護力、③医療、看護、介護のサポート体制を考慮した上で進めることが重要である。
・個々の患者さんに合わせた嚥下リハのゴールを設定し、嚥下リハを行う前に患者さんあるいは介護者にきちんとした動機付けを行うことが大切である。
・嚥下訓練には食物を用いる直接嚥下訓練と食物を用いない間接嚥下訓練があるが、直接嚥下訓練は食物を用いるため、誤嚥や肺炎のリスクがある。
・嚥下リハにおいて口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防や口腔機能の維持向上に重要である。
・嚥下リハで用いる食物は味、温度、形態などの工夫が必要である。
・間接嚥下訓練では、息こらえや寒冷刺激などの手技の実施にあたり呼吸器障害や心疾患に注意が必要である。
・アセスメントをもとに安全なプログラムと現実的な目標を設定し、可能な限り直接嚥下訓練を行う。
食物 | 誤嚥のリスク | 訓練の意義・目的 | 課題転移性 | 効果 | |
---|---|---|---|---|---|
間接訓練 | 用いない | ほとんどなし | 理解困難 | 小 | 小 |
直接訓練 | 用いる | ある | 理解容易 | 大 | 大 |
※公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト P58より作図
参考文献
・公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト P56〜59より改変
引用文献
※1公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト P56
※2公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト P56
※3公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト P58
監修:全国在宅療養支援診療所連絡会 会長 新田 國夫