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在宅医療の現場から

かかりつけ医に必要な在宅医療の知識(第4回)

かかりつけ医のための在宅緩和ケア 10のポイント鈴木 央(鈴木内科医院 院長)

はじめに

かかりつけ医にとって緩和ケアはあまりなじみがない。しかし、がんを患ったかかりつけ患者が、かかりつけ医による自宅への訪問診療を希望することも少なくない。このときに緩和ケアの知識があるかどうかで、そのかかりつけ患者の人生の最終段階は大きく変わることになる。今回は、がん緩和期(終末期)における在宅緩和ケアのポイントについて触れる。

がんの痛みへの対応

がんの痛みに対して、近年は医療用麻薬を使用することが多い。WHO方式と呼ばれるがん鎮痛法【文献番号1】がすでに普及している。この方式のポイントは痛みを感じる前に鎮痛剤を計画的に使用すること(この方式をSaunders が世界で初めて報告【文献番号2】した)、痛みのレベルに応じ鎮痛剤の種類や量を調整することである。弱い痛みであれば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンで対応可能であるが、強い痛みに対しては強い医療用麻薬を使用する。

ポイント1:医療用麻薬使用時には十分な副作用対策を

医療用麻薬は必ず副作用があるため、すべてのケースで副作用対策を行う。
嘔気嘔吐に対する対策は中枢性の制吐薬を併用する。プロクロルペラジン(ノバミン®)、ハロペリドール等があげられる。さらに適応外ではあるがペロスピロン(ルーラン®)など非定型抗精神病薬の有効性も指摘されている【文献番号3】。便秘に対する対策は酸化マグネシウム等の便軟化薬と刺激性下剤の組み合わせで対応する。一方フェンタニル貼付薬は便秘を起こしにくい。

ポイント2:少量から開始するが、痛みの残存あれば早めに増量

慣れない医療用麻薬を使用する場合は、少量から開始する。しかし医療用麻薬の鎮痛効果はある程度の血中濃度に達さないと発現しない。このため痛みの状態を診ながら早めに増量する。筆者の経験的な数値であるが、モルヒネ塩酸塩60㎎ 相当の量までは7~10日程度の期間で増量してもまず問題はなく、ある程度の患者が除痛される印象が強い。

ポイント3:レスキュー薬投与を忘れずに

痛みは常に一定とは限らない。体動をしたのちや、トイレ歩行、排便等の行為で急に強まることがある。これは突出痛(breakthrough pain)と呼ばれている。これらが出現した場合、あるいは出現が予測される場合に使用するのがレスキュー薬と呼ばれる即効性のある医療用麻薬(モルヒネ:オプソ®、オキシコドン:オキノーム®、フェンタニル:アブストラル®またはイーフェン®バッカル)である。投与量は症例毎に調整するが、1日量の1/6~1/4量を目安(フェンタニルレスキューは別に用量調整)とする。

ポイント4:医療用麻薬とNSAIDsを併用すると相乗効果

医療用麻薬は中枢性の鎮痛効果を示し、一方でNSAIDsは侵害受容器末端に作用する。すなわち、作用機序の異なる鎮痛剤を併用することで相乗効果が期待できる。

ポイント5:神経障害性疼痛に対処する

神経障害性疼痛(触るだけで痛む、異常感覚を伴う痛み)を認める場合には、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンやデュロキセチン(適応外))の併用も有効である。副作用としては眠気を催すことが多いため、症例毎に投与量を調整する必要がある。

その他の苦痛への対応

がんによる苦痛は疼痛だけではない。食欲不振、呼吸困難や腹部膨満といった身体的苦痛、あるいは人生の最終段階を前にした精神的、実存的苦痛を引き起こす。

ポイント6:食欲不振、全身倦怠感にはステロイドを使用

がん緩和期における食欲不振、全身倦怠感にはステロイドが奏効することが少なくない。ベタメタゾン(リンデロン®等)、デキサメサゾン(デカドロン®)にて2~4㎎を投与する。近年はデカドロン®4㎎錠が発売され使用しやすくなっている。

ポイント7:呼吸困難にはモルヒネが奏効

呼吸困難に対する基本薬はモルヒネである。痛みに投与する場合の1/3量程度で有効といわれ【文献番号4】、筆者は終末期には持続皮下注射を用いて投与することが多く、最小量である6~12㎎/日の投与量で効果があることが多い。

ポイント8:腹水穿刺、胸水穿刺は在宅でも可能

腹水貯留に対して在宅でも腹水穿刺は可能である。当院では、必要な症例に午後の診察終了後に訪問し、エコー下で腹水(あるいは胸水)穿刺を約1時間程度かけて行うことが多い。あらかじめ十分な情報提供を行っておくと、訪問看護師が穿刺後の対応をしてくれるところも少なくない。

患者の全体を看る

人生の終末期において心の乱れを起こさない人はむしろ少数であろう。精神的なケアや実存的なケアも在宅医が担当することになる。

ポイント9:傾聴は双方向のコミュニケーション

傾聴はただ話を聞くのみではなく、こちらが真剣に理解しようとしながら聞いていることを相手に伝えることにある。あらかじめ30分程度の時間を取る。ポイントはオウム返しと共感である。相手の苦痛の表出「苦しかった」「つらい」等に同じ言葉をあえて重ね、共感を示す:「そうですか、おつらかったのですね。よくわかります」等。

ポイント10:がん緩和期は時間との闘い

がん緩和期(終末期)の方の身体機能が低下し在宅で療養する場合、残された時間は週単位であることが少なくない【文献番号5】(図)。在宅開始直後では、自宅内移動は問題ないケースでも、2~3週後にはベッド上から身動きできない状態になることもしばしばである。早い段階から、訪問看護などの支えるための様々な連携や疼痛等の苦痛管理、本人や家族への病状説明などのケアを進める必要がある。

【在宅緩和ケアの概念】

がん(末期)緩和期においては、ある時期になると身体機能が急速に低下し、週単位で死亡に向かうといわれている。在宅緩和ケアでは、外出困難な時点から開始されることが多く、残された時間は短いことが多い。 (文献5 より筆者一部改変)

かかりつけ医が在宅緩和ケアを行う意味

かかりつけ医が、その患者の人生、家族の状況、病気の経過などの様々な事情を知っていること、そしてその事情をケアに活かすことは大きな安心、満足につながることも忘れてはならない。安心し、満足すると身体的苦痛も軽減されることが少なくない。今後の高齢社会の中でかかりつけ医が在宅緩和ケアに参入することは、大きな方法論といっても過言ではないのである。

【文献】

1)世界保健機関編:鎮痛薬の使用法、がんの痛みからの解放―WHO方式がん疼痛治療法、金原出版、東京、17(1996)

2)Saunders C : The treatment of intractable pain in terminal cancer. Proc R Soc Med, 56, 195-197 (1963)

3)余宮きのみら:Opioid 導入時の制吐薬としてのProchlorperazineとPerospirone の制吐作用と錐体外路症状についての比較検討、癌と化学療法、40(8)、1037~1041(2013)

4)Manzini JL, et al : Oral morphine in the treatment of patients with terminal disease. Medicina (B Aires), 50(6), 532-536 (1990)

5)Lynn J :Perspectives on care at the close of life. Serving patients who may die soon and their families : the role of hospice and other services. JAMA, 285 (7), 925-932(2001)

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